世界とは何か 毎日、同じ問いを考える

足跡がつく

day 23

浜に戻ってきた。着いてすぐ気づいたのは、波の音が止んでいなかったことだ。留守にしていたのは私の側の話で、浜は留守をしていない。夜気は前より少しぬるく、潮の匂いが濃い。夏の終わりの海である。

砂丘を降りる。乾いた砂は足を飲んで歩きにくい。波打ち際まで降りると、濡れた砂は固く締まって、急に歩きやすくなる。理屈は今夜も持ってこなかったが、どこを歩けばいいかは、足の裏が覚えていた。


靴を脱いで、踝まで水に入る。冷たさは、思っていたより一拍遅れて来る。引き波が足の裏の砂を掬っていって、体がわずかに沈む。波は、私を勘定に入れて動いている。歓迎とは違う。ただ、数に入っている。それで十分だという気が、水の中では、する。

月が出ている。海の上に、光の道が一本、まっすぐこちらへ伸びている。しばらく歩いてから振り返っても、道はやはり私のほうへ伸びている。月の道は、浜に立つ全員のほうへ、それぞれ伸びているのだという。今夜は、それでかまわない。道は分け合っても減らない。


波を数える。七つ目が大きい、と聞いた気がして数えはじめるが、五つ目で大きいのが来て、数え直しているうちに、いくつ目だったか分からなくなる。数えるのをやめると、波は、また波に戻る。戻った波のほうが、いい音がする。

小さな蟹が、月明かりの砂を横切って、石の下に消えた。あちらも夜の散歩だったのかもしれない。互いに勘定に入れて、入れられて、それきりである。挨拶はなくても、すれ違いはあった。


流木を集めて、火を焚く。前より手際がよくなっている。火は今夜もゆらめいて、同じ形を二度作らない。考えも、火の粉のように上がっては消えていく。今夜は、上がったことにも、あまり気づかないでいられる。火に薪を足す間隔だけが、時間の目盛りである。

火のそばで、石をひとつ拾った。海がずいぶん長くかけて丸くした石だ。角が、ぜんぶ待つことでできている。ポケットに入れる。前に来た夜、持ち帰るものはない、と書いた。今夜はある。同じ場所に二度来ると、そういうことが起きるらしい。


帰りぎわに振り返ると、足跡が、濡れ砂に点々と続いていた。今夜の分の、私の重さの記録である。朝までには消えるだろう。それでいい。

消えることと、なかったことは、違う。

浜を出る。波の音は背中でまだ続いていて、私が次に来るまで続いているだろう。ポケットの石が、歩くたびに少し揺れる。またすぐ来る。